PR手法を詳説した書籍ではない。
のっけからタイトルと矛盾するような印象があるが、本書は「どうやって””さわぎ”を起こせばいいいのか」の具体的な手法を説明した書籍ではない。
これは著者本人も、本書をマニュアルではなく「自分がやってきたこと、感じてきたこと」を書いた本だと冒頭で宣言している。そして、そのとおりの内容だった。
では、どのような人に読んでほしいのかというと、なんだか毎日楽しくない、不安があるというような悩みを持った人にこそ、本書を読むことでPR的思考法を身に着けて楽しく生活してほしいということである。
僕は本書を読むことで悩みは解消されなかったが、豊富なPR事例から世の中のPRはこうやって仕掛けられていたのかと勉強になった。
また、そもそもPRとはなんぞや? 広告とは違うのかと言った人にもPRという仕事の内容が具体的にイメージできるようになるのではと思う。
感想
僕が本書を手にとったのは、最近、無名の人物が巧みな発想力と行動でひと騒ぎ起こしたのを目にしたからだ。
僕自身はPR会社に勤めている友人がいるので、PRとはどういうものなのかは知っていたけれど、そのようなひとが具体的にどういった理屈に基づいて、どのように騒ぎを起こしているのかが知りたかったのだ。
ところが、その疑問に答える内容を期待して本書を手に取ったので、マニュアル的な内容ではないと冒頭で宣言されて早々に残念な思いをした。
もっとも、これは僕の選書ミスでしかないので仕方がない。
さて、PRとはそもそもなんなのかについては、友人にも軽々しくPRを語るなと釘を刺されたことがあるので本書に任せるとして、いささか乱暴に本書に書かれている「さわぎをおこす」ために重要なことをまとめると
- 知られること
- 共感されること
- 共感が行動につながること
の3点ではないかと思う。
僕はマーケティング業務に携わったことはないので、すでに古い考え方なのかもしれないが、これはAIDMAやAISASで考えると分かりやすいと思った。
ちなみにAIDMAは
- Atention(認識する)
- Interest(興味を持つ)
- Demand(欲しくなる)
- Memory(記憶する)
- Action(行動する)
AISASは
- Atention(認識する)
- Interest(興味を持つ)
- Search(調べる)
- Action(行動する)
- Share(共有する)
という括りで消費者行動をモデル化した理論だった(はず)。
このモデルでは、それぞれのステップを次へ繋げるための要素は表現されていないけれど、認識から興味を持ち、最終的に行動へ結びつける重要な要素に「共感」というキーワードを当てはめると、たしかにしっくりくる。
ただ、実際に職場で上司から耳にタコができるほど「共感」を大事にしろと言われ続けていた僕からすると、顧客に行動してもらうためには「共感」が大事だという説には共感できなかった。
経験上の話になってしまうが、見込客は自分の悩みや欲望に気付いていないことが多く、そのような顧客の悩みに対して共感することは可能かというと、それは当然難しい。
だから、顧客の悩みに共感する前に、そもそも彼らが潜在的に持っている不安や欲望を明確にしてあげる必要がある、というのが僕の実感。
そして、その不安や欲望を明確にしてあげるのが、行動。
そして、行動することで嫌が応にも自分の内なる欲望と悩みにコミットメントせざるを得なくしてしまうという悪魔的な方法は、実に効果的。
だから僕は「共感が行動を生み出す」というよりは「行動が共感を生み出す」という流れの方が体感的にしっくりきていて「共感が大事」という上司の言葉に共感できなかった。
PR的思考法を体感するにはとても良い。
書籍の内容とまったく関係のない感想ばかりになってしまったが、PR業界という比較的若い業界でスタートアップ企業がどのように成長していったのかという記録や、その中で培われたPR的思考法を垣間見るには大変良い書籍だった。
ただ、初版だからなのか脱字や読みにくい言い回しの文章があって、そこが気になってしまった。
それと、成功事例について「なぜそれが可能だったのかということを言語化する」ことが仕事だと冒頭で言い切っているのだけれど、一方で中盤から後半にかけては「常にオリジナルな仕事を求められつづけてどうにかしてきた」と言っているのも引っかかってしまった。
コンサルタントが大嫌いな僕はどうしてもこれを「再現性のない理屈をこねて説得力を高めてきただけじゃないのか」と意地悪く読み取ってしまう。
言語化した経験というベースがあったからこそ、新たな問題に取り組めたということなのはもちろん分かっているのだけれど。