部下のやる気がない理由、見誤ってませんか。『モチベーション・リーダーシップ』小笹芳央 著。




組織を率いるための実践的なリーダシップのテクニックとノウハウを紹介する書籍。

しっかりとした理論と知識に基づいた考察や提言があり、丁寧に作られていると感じる。

もっとも、僕の職場では有効ではなかったけれど。




部下のやる気がない理由、見誤ってませんか。『モチベーション・リーダーシップ』小笹芳央 著。

オペレーションの戦略化

個人的に、会社の生産性の問題を従業員のモチベーションに帰結させる経営者は無能だと思っている。

従業員にモチベーションがあろうがなかろうが、一定の生産性を担保する体制を整えるのが経営者の務めであって、一個人のやる気で上下する生産性に経営が影響されるのは、よほど属人的な業種以外では従業員の能力に頼り切った経営と言わざるを得ないのではないかと。

一人の優秀な兵隊の能力を戦略に組み込んでいいのは、漫画や映画のなかだけだ。

プレイングマネージャーの罪

さて、本書、「モチベーションリーダーシップ」では組織がうまく回らない一つの例として、組織拡大期の業務過多による疲弊症を挙げる。

拡大する業務は、リーダーも含めた従業員全員がプレイヤーとなって対応する必要があり、実質的にリーダー不在となった組織はいつしか機能不全に陥る。

これは実際に僕も経験したとおりだし、巷でもよく聞く組織の問題と一致する。

僕自身、管理職ではあったけれど激務で倒れ、病み、壊れてゆく部下の負担を減らすために仕事を肩代わりして休みなく働いていた。

しかし、それはリーダーの役割ではないと本書は説く。

リーダーの役割は、情報収集、情報提供、意思決定が重要であると。

そのような正確で豊富な情報に基づいた意思決定と、部下への適切な情報提供で仕事の方向性を示して、部下の働きをコントロールすべきと。

子育てのように部下を育てる

そして、部下たちのモチベーションを高めるために、豊富なテクニックを紹介する。

サンクス効果(要するに感謝しましょうということ)、オプション効果(選択肢を示して部下の自主性を尊重しろということ)、ラダー効果(ちょっとずつ難しく、つまり公文式)、スポットライト効果(褒めろということ)。

これらのテクニックは別の書籍などでもよく紹介されていて、たとえばオプション効果などはモチベーション管理だけではなく、ハーバード流交渉術などでも目にした記憶がある。

飢えた人間に高尚な倫理を説く無意味さ

だが、僕の経験から、これらのテクニックが有効に働くことは少ない。

感謝して、自主性を尊重して、少しずつ任せる仕事のレベルを上げて、成果を褒める。

教科書的にこれらの行為をしても、感謝され褒められることは当たり前と思われるし、仕事のレベルはとにかく下げることを求められる。選択肢を与えても強制的に命令をしなければ選ばない。実態はこんなものだった。

なにも部下たちがおかしかったというつもりはない。

僕自身、部下の立場になれば同じ反応を示すだろうことは想像に難くない。

要するに、部下たちは上司に褒められ、感謝され、自主性を尊重されたい、などとは微塵も思っていないのだ。

なぜかと言えば話は簡単だ。

部下たちが欲しいのは承認ではなく報酬だからだ。

もちろん、僕自身、マズローやらモチベーション3.0やらを知らなかったわけではない。ただ報酬を決める裁量がない以上、承認欲求を満たす方法でモチベーション向上を狙うほかなかっただけのことだ。

そのもっとも基本となる「報酬」という点を無視して、組織は従業員のモチベーションが一向にあがらないことを問題視して、さらにやる気を高める施策を実行していく。

作られた一体感。ジャーゴン

本書は、言葉について以下のように述べる。(要約)

言葉とは世界である。言葉とは他者との世界共有可能性を高めるための抽象化。言葉を変える(変えさせる)ことで世界観を変えさせることができる。

そして、僕のいた会社でも従業員の言葉を変えようという取り組みが始まった。

社内でしか通用しないオリジナルな言葉(ジャーゴン)を使い始めたり、ことあるごとに組織や自分の目標を再確認させて言葉に落とし込ませたり。

その結果、どうなったかというと、組織が従業員の考え方を強制的に変えさせていることを敏感に感じとった、まともな従業員から順に会社を辞めていった。

残った社員は本当に会社の理念に共鳴した幸運な者か、無意識に考え方を変えさせられた愚者か、あるいは騙されたふりの上手な賢い者だ。

会社にとっては低待遇のまま生産性を上げてくれる貴重な人材ばかりが残るが、従業員たちにとって、はたしてなにか良いことがあったのだろうかと考えると、ないだろう。

従順な奴隷の完成だ。

部下のやる気がない理由、見誤ってませんか。『モチベーション・リーダーシップ』小笹芳央 著。まとめ

長く会社で働いていろいろと経験して分かったのだけれど、書籍に書いてある理論は分かりやすく、根拠も十分で納得できるものが多い。だけど、実践できる環境はおそろしく限られている。

現場は、もっと複雑で多様なひとがいて、一筋縄ではいかない。

ひとりひとりが楽しく働けば、組織全体も活性化するなんてことも稀だ。やりたくもないことをやってもらう代わりに高い報酬を出す。報酬にこだわりがない人には承認を与える。成長したい人には機会を与える。

それぞれに適した対応をするしかないのだ。それを一括りに考えてなにかを変えようというのは、組織として独善的で人間性を奪われたような疎外感を従業員にもたらす。

それでも、一定数の純粋な心を持つ従業員は会社の施策に影響されて自身の考え方を変える。

そして彼らがどうなるのかというと、ある程度の年齢を重ねた中堅社員たちは結婚や出産などを機会に生活が立ち行かなくなるも、既にどうにもならなくなった現実に倦み、社内でこっそりと不祥事を繰り返すようになるのだ。




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