忘れることの創造性。『天才たちの日課』メイソン・カリー著。







忘れることの創造性。『天才たちの日課』メイソン・カリー著。

中世から現代まで幅広い時代に活躍したクリエイター(作曲家、詩人、哲学科などなど)たちがどのような日常を送っていたのかを手記やドキュメンタリーなどの文献から紹介する書籍。一人当たりの記述は2~3ページと多くはないが、紹介される著名人の数は100人を超える。

そのクリエイターの創作スタイルはだいたい3タイプに分けられるようだ。
まず一つは、決まったスケジュールや儀式を自分に課して、淡々と仕事をこなす職人タイプ。

村上春樹などが日本ではこのタイプとして有名。健康な食事と運動習慣など、習慣化を味方にしてエネルギーを創作することに集中させる。
次に、薬物やアルコールなど乱れた生活をベースとする破滅型タイプ。

創作することで生じる苦悩や葛藤を別のものに依存することで回避しているのか、または破滅的な生活からインスピレーションを得ているのか、いずれか。個人的にはチャールズブコウスキーなどを想起した。

最後に、決まった生活パターンは持たずに、通常の生活をしつつ仕事をしたいと思ったときにだけ仕事をするインスピレーションベースのタイプ。無理は生じない。
森博嗣などは創作について、初稿は芸術的作業だが、それ以降は工学的作業だ、という趣旨のことを言っていたような記憶がある。

いずれのタイプにおいても重要なのは、忘れるということのように見える。
習慣化で生活のことを考えずとも済むようにするのか、薬物や酒で一時的に日常を忘れるのか、手法は真逆だが目指すところは同じように思える。

日常はまつわりついて離れない。
隙あらば意識的にまたは無意識的に思考を制御しようと、そこかしこに潜んでいる。

それをそれぞれのやり方でコントロールして、日常を離れた内面的状況を作ろうという試み。
意識してそういう時間を作らないと、時間はただ過ぎ去っていく。

仕事をして、帰宅して、ちょっと酒を飲んで寝る。それを繰り返しているうちに5年、10年と経っていく。
10年間を経験しているのではなく、同じ1年を10回繰り返していないだろうかと胸に手を当てて考えてみる。

最近、声を出して笑ったのはいつだっただろうか。
(声を出すかどうか以前に、3日くらい笑っていない)
最近見た心洗われるような景色はなんだっただろうか。
(思い出せない)
そうやって自分の内面に潜り込む時間はエネルギーを割いて作らなければ訪れない。

俺の周囲にクリエイターはいないけれど、実際に会う機会があれば、どのような生活を送っているのか聞いてみたい。

「思うんだけど、みんな時間は過ぎていくということを忘れようとしているんだよ。」
フィリップ・ラーキン(詩人




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