頭の外で考えよう!『Scrapbox情報整理術』倉下忠憲 著。




本書の内容はScrapboxと呼ばれるツールの使い方を説明した技術書もしくは簡易マニュアルといったもの。ところが、本筋の前提として言及される「情報」についての考え方がとても深く学びになる良書。

Scrapboxの導入を検討している人だけでなく、情報整理の歴史を振り返りたい人にもきっと役立つのでは。




頭の外で考えよう!『Scrapbox情報整理術』倉下忠憲 著。

整理とは、使うために情報に秩序を与えること

多すぎる情報は脳にストレスを与えて思考力を鈍らせる。少なすぎる情報は判断を誤らせる。ならばどうすればいいのか、という問いへの答えはいくつもある。

たとえば、いらないものを徹底的に排除して思考も生活もシンプルにして自分にとって本質的な価値観を浮き上がらせる断捨離は、情報を減らすアプローチでの情報整理術と言えるだろう。

たしかに、自分のコアとなる価値観を大切にして情報のインフレを避けるのは悪くない手法のようにも思えるが、否が応でも増えていく情報の大半を無価値だといって切り捨てる態度は、どうにも傲岸不遜だし、なによりもったいないのではないだろうか。

一点突破の強い意志で周囲の情報に振り回されない確固たるスタンスは、ときにあこがれの対象ともなるだろうが、大抵の場合は周囲とのずれや修正の機会の損失で、取り戻せない失敗につながることもあるだろう。

では、どうしたら良いのだろうか。

そこで、Evernoteやonedriveなどのクラウドストレージが「捨てる」アプローチではなく「とりあえず保留しておく」という手段を提案してくる。

これは確かに有用で、とりあえず情報を一箇所に保存しておいて、必要とあらば後から検索で掘り起こせばいいだけだ。

情報整理3.0

と、ここまでが、著者がいうところの「情報整理2.0」だ。

情報整理1.0は「使いやすい場所に情報を配置する」

つまり掃除用具を一定の場所に保管しておくような整理方法。小学校でみんな学んでいるはず。

情報整理2.0は「放り込んでおいて後で検索する」

クラウドストレージとPCの高スペック化によって実現された高速検索ありきの整理方法。ちなみにgoogle検索もgoogleという箱の中に並べられているものを、キーワードで検索して取り出す情報整理2.0にたとえられる。

では、情報整理3.0はどういうものなのだ、というところでScrapboxの登場だ。

情報整理3.0は情報を一箇所に集めるところまでは情報整理2.0と同じだが、違うのは「関係性」を重視するということ。

すべての外部化された情報は等価であり、ただ関係性によってのみフォーカスされる情報が変化していく。

なにかを思い出せば、別の何かが連想されるように3.0で整理された情報は連綿と、時には少しだけ思考をジャンプしていろいろな情報を提示してくる。それはあたかも、とりとめもない思いつきのように。

そのような、浮かんだ先から弾けていく脳内の泡沫を視覚化するツールが、すなわちScrapbox。情報整理2.0が脳内の外部ストレージ化とするならば、情報整理3.0は脳内の演算までも外部化したようなものか。

しかし、思考の外部化は一朝一夕にはできないのも事実。クラウドストレージだって、それなりの蓄積がなければ役には立たない。

ただ放り込むだけではなく関係性まで記録していく情報整理3.0は、実現するのにそうとう骨が折れるのではないだろうかとの疑念が湧くのも当然だ。

だが心配は無用だ。

その点は、Scrapboxの基本設計思想としてしっかりと盛り込まれているようで、関係性の記述は非常に簡単な独自の方法で実現できる。要求される労力は、モノを適当に引き出しへ放り込む前に、ちょっと付箋を貼っておくくらいのものだから、さほどストレスにならないだろう。

良いインタビュアーは質問が上手い

そうやって、それなりの蓄積がされた情報はかつてただ放り込むだけだった情報たちとよりも饒舌にあなたに語りかけてくる。

「それは今までに何回も考えていましたね、実はあなたが思っているよりもよほど重要な概念なのでは」

「それとこれは、よく考えると結構関係が深いですね」

などと提案してくる。

AmazonやGoogleAdscenceの広告やサジェストはちょっとうるさいな、などと思わないでもないが、こと何かを売りつけようという下心がない提案は、自分にとって重要な気付きが得られることが期待できる。

自分はしっかりとした価値観があるから他人のアドバイスなんて不要だという人だって、自分の過去の行動と思考がそういっていくるのであれば、さすがに無視もできないだろう。

良いインタビュアーは質問が上手とも言うが、きっと、十分に蓄積されたScrapboxは思考を深める良質な質問をあなたに問いかけてくるはずだ。

泡の中からこんにちは

ところで、著者は本書の末尾でこのように言っている。

一 時 期 ブ ロ グ は 個 人 が 持 つ 知 見 を 公 開 す る た め の 優 れ た ツ ー ル で し た が 、 最 近 で は 有 名 に な っ て 一 旗 揚 げ る た め の 手 段 に 変 質 し て い ま す 。 そ の 目 的 に よ っ て 大 量 の 情 報 が 世 に 生 ま れ て い る こ と も 確 か で す が 、 一 方 で 機 械 的 に 生 み 出 さ れ る テ ン プ レ ー ト サ イ ト 、 注 目 を 集 め る た め だ け に 誇 張 表 現 を 使 う 発 信 者 、 G o o g l e の 検 索 結 果 を ハ ッ キ ン グ し て 、 他 の サ イ ト を 下 位 に 押 し や る サ イ ト な ど が の さ ば っ て い ま す 。

こうして自分の思ったことを好き勝手書いている僕にとっては耳が痛い話だが、たしかにそのとおりと頷くほかない。

そして、著者はこう続ける。

こ の よ う な 現 象 が 、 適 切 な リ ン ク ネ ッ ト ワ ー ク の 形 成 を 阻 害 し て い ま す 。 ま た 、 [フ ィ ル タ ー バ ブ ル]と 呼 ば れ る [「 自 分 が 好 む 情 報 し か 閲 覧 し な い 」] と い う 偏 り も ネ ッ ト に よ っ て 強 化 さ れ て い る 側 面 も あ り ま す 。

「自分の好む情報しか閲覧しない」フィルターバブルを起こしていないかと、身の引き締まる思いがしないだろうか。

ちなみに、「フィルターバブル」とは泡に包まれて周囲の見たくない情報から守られているような状況がその語源だ。

泡のように浮かんでは弾ける思考を外部化するツールのScrapboxがフィルターバブルを防ぐツールにもなりえることが、僕にはなんとも皮肉な偶然のように思えた。

さて、ここまで本記事を読んでくれていて、新しい情報整理に興味を持たれた方はぜひ本書を手にとって、そしてScrapboxを実際に使い始めてみてほしい。

はじめは自由度が高すぎて、どうやって使っていったらいいのか戸惑うかもしれない。それでも、その先にはきっと驚くような世界が広がっていると思う。

僕自身、Scrapboxはまだまだ使い始めたばかりだけれど、このツールにはすごい可能性を感じてワクワクしているところだ。

余談だけど、Scrapboxは「黒丸」=「・」=「バレット」がスペースまたはタブで入力できるので、「・」を多用するバレットジャーナルにとても馴染みやすいのではと思う。




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