プログラマーの視点から仕事術を説く書籍。
実際に僕が仕事のスピードを上げるうえで大変参考になった本書は、実践的ですぐに活用できるテクニックが満載の良書。
目次
PIEでKISSな仕事でDRYにしよう。『最速の仕事術はプログラマーが知っている』清水亮 著。
本書の充実した内容を身につけるためには、実際に手にとって読み込んでいただきたいところだが、有益さを伝えるために、その一部だけを紹介させていただく。
DRYにやっているか?
なにも冷酷無比で現実的な態度で仕事せよということではない。
DRYは、同じことを決して繰り返すなという「Don’t Repeat yourself.」の略だ。
繰り返し行う作業があるならば、それをテンプレート化して徹底的に使いまわそうということ。そして、まとまった数のテンプレートはライブラリとして、いつでも使えるようにしておく。
実際、仕事の早いビジネスマンはことごとくテンプレートを有効利用する。文書のテンプレート化、メール本文の署名登録、IMEの辞書登録。すべて僕も実際にやってきたことばかりだ。
速さはすべてを癒す
著者は1時間に10,000字タイプする。僕はせいぜい5,000なのでこれはすごい。
この差は指使いの速さから生じているのではなく、入力方式の差。つまり著者はかな入力、とりわけ親指シフトでタイピング速度を上げている。
普通のローマ字入力では母音と子音で一文字打つのに2タイプ必要なところ、かな入力は1タイプで済むので、単純に同じ文章を入力するのに半分のタイプで済む計算になる。
かな入力は、実は僕も習得しようとして練習しているが、まだ実務で使うほどにはいたっていない。時間が無限のように使える学生時代に習得しておけばよかったと後悔している。
PIEの原則、議事録、メモ
「PIE」は「Program Intently and Expressively.」の略。意図を明確にせよ、ということ。
だらだらと長いだけで何も決まらない会議に業を煮やしてファシリテーターを買って出る事が多かった僕は、この原則の有用性を身にしみて感じている。
誰が何をどのように、どう会議の結果をアクションに落とし込むのか。そもそも会議の意図するところはなんなのか、それを意識しないただの世間話みたいな会議のどれほど多いことか。
KISS
「KISS」は「Keep It Simple,Stupid!」の略。シンプルにしろバカ!ということ。
複雑な物事は複雑にしか表現できないというのが、僕の持論ではあるけれど、たいていの物事はシンプルに表現できないほどではない。
シンプルなものを複雑に表現すると、そこには解釈の幅ができてしまう。それはつまり誤解の種だ。
理解できるだけでなく誤解できないようにするためにもKISSの原則は重要。
wordは非効率
テキストを書くのにはWordは不要、テキストエディタが最強というのが著者の主張。
たしかにテキストエディタの使い勝手は素晴らしい。しかし、どうしても体裁が重要になる外部へ向けた文書についてはWordを使わざるを得ないのが普通の会社員の辛いところ。
Markdown記法を使ったテキスト編集はブログ作成でなれているので、自分のメモ書きはテキストエディタでやっているけれど、社内でテキストファイルを添付すると手抜きに思われたりするあたりが、僕の会社がいかに非効率なやり方をしていたかをよく表している。
YAGNI
「YAGNI」は「You aren’t gonna need it.」の略。それたぶん必要じゃないぜ、っていうこと。
この原則はScrapbox情報整理術にも出てくるもの。あれもこれも将来必要になるかもしれないからといって準備するのではなく、まずは本質的なものに集中しようということ。
エッセンシャル思考のような感じもするけれど、僕はエッセンシャル思考はあまり好きではない。現場ではエッセンシャル思考を持ち出して、本質的なこと以外はどうでもいいという建前で、物事を単純化させようとする奴ばかりだったからだ。
本質なんてのは、よほどよく考えるか手を動かすかしないと見えてこないのに、ろくに考えもしないで間違ったエセエッセンシャルな思考法で失敗した仕事の尻拭いばかりが思い出される。
質の高い情報は有料≠有料の情報は質が高い
これはよく言われることだけど、本書ではさらに深掘りされて書かれている。
webは情報収集のとっかかりとしてはとても有用だけれど、それだけでは不十分。そこからさらに書籍をあたるぐらいは最低限必要。
なぜなら、書籍は企業が、ある程度の売上を見積もってコストをはらって出版するというリスクをとっているから、情報の質もそこそこ担保されているから。
ここまではよくある話。
著者は「情報を集める最良の手段は、情報を発信すること」だと説く。情報交換は先出しが基本だと。
発信した情報に対してリターンがあるとは限らないというリスクをとって、はじめて質の高い情報が集まる。
また、発信を続けることでできるネットワークを通して情報が集まる。
発信というとSNSを思い描きがちだが、居酒屋談義やイベント、旅行などあらゆる場が発信の場になる。総じて、一次情報を集めようということ。
ところで、「質の高い情報は有料」といって、書店に行って闇雲に本を買ったり、著名なnoteを購入したりする人が多いけれども「質の高い情報が有料」=「有料な情報は質が高い」わけではないことは考えているだろうか。
人生設計のフェイルセーフ
YAGNIと矛盾するように思えるが、起こりえないと思えることも想定しておくというリスクマネジメント手法としてフェイルセーフが紹介される。
僕自身はひとつの仕事ばかり、それこそ心血を注いで取り組んできたので、その結果なにも得られなかったという失敗を犯してしまった。
フェイルセーフとして、副業を本格的に進めておくくらいのリスクヘッジをしておくべきだったという後悔がある。
経営者とはニートである
NEETとは「雇われておらず、教育を受けているわけでもなく、トレーニング中でもない者」なので経営者は実はNEETということになる(厳密には35以上は無職でもニートの定義から外れるが)と著者は冗談めかして言う。
なるほど、仮に僕がニートだったとしても、事業を設計して資産を回転させて売上さえ立てられれば経営者と言い張ったって間違いではない。
缶詰めをナイフで開けていないか?
本書のコラムで缶詰についての話題がある。缶切りが発明されたのは実は缶詰の発明から半世紀も後になってからだという。
なぜ、誰もそこまで缶切りを発明しなかったのか、今になって思えば疑問に感じるものだが、はたして自分の知る世界で缶切りのない缶詰は見当たらないだろうか。
僕らは缶詰を相手に銃剣でこじあけようと苦戦していないだろうか。
もっと楽な、抜け道みたいなものを探してみるのも悪くない。それは別にずるをしようということではない。抜け道を探すという努力をしているだけだ。
『最速の仕事術はプログラマーが知っている』清水亮 著。PIEでKISSな仕事でDRYにしよう。 まとめ
ただのまとめみたいになってしまい、著者に申し訳ないような記事になってしまったが、それだけ反論の隙きのない内容だったということだし、この程度ではおよそネタバレというほどの内容を紹介できない。
実は本書を読むのは2回め。それくらい僕にとっては得るものの多い良書だった。